「これは・・・」
モニターを見ながら思わずうめいた。
エリア11に残った地下構成員。
その中でも信頼できる者に、極秘ルートの連絡回線を渡していた。今見ている報告は、それを利用したものだ。この回線を使用した人物がブリタニア軍に捕縛され、残党である自分たちをおびき寄せるために撒いた餌情報の可能性はゼロではない。ゼロではないのだが。
「どうかしたの?」
難しい顔して。と茶化してくるのは暇を持て余した技術者だ。
ブラックリベリオンのあと中華連邦に匿われた今の状態では、やれることは限られてる。資金が乏しく機材もない今、KMFの開発もままならない。
幸い、今まで積み重ねてきたデータは全て持ってきたため、いつか再び反旗を翻すときのために解析作業と新たなKMFの構想及び設計を手元にあるパソコンで行ってはいるが、基本暇だ。
「鬼が出るか蛇が出るか。どうするかはきみの判断に任せよう」
そう、これは本人に決めさせるのがいいだろう。
そう言いながら、ディートハルトは印刷した紙を、傍に控えていた女性に渡した。私が質問したのよ?とでも言いたげに、技術者・・・ラクシャータは煙管を加え、眉を寄せた。
紙を手渡された咲世子は、内容に目を通し、眉を寄せた。
「これは・・・」
「理由は不明だが、ブリタニアの軍人と思われる人物が、きみを探している」
「私を・・・」
「アッシュフォード学園周辺で、ということだが、罠の可能性もある」
「でも、咲世子のことは、私も知らされてなかったのよ?一体誰が彼女を黒の騎士団だって密告するの?」
「知っていたのは、私と扇副司令、そしてゼロの三人だけ」
「それだと扇かゼロってことになるわよね」
「もしゼロだった場合は、生きているということです」
どこか狂気にも似た笑みを浮かべ、ディートハルトが言った。
自白剤でも使えば、本人の意志とは関係なく情報など引き出せる。
問題は、その情報の出どころだ。
非常に危険な賭けではあるが、咲世子がこの誘いに乗ることで、ゼロの生死がわかる可能性がある。
「危険すぎるわ」
ラクシャータは眉を寄せた。
いままでブリタニア軍は咲世子のような下っ端まで追いかけてこなかった。ブラックリベリオンに参加し、各地に散った日本人は数多くいるのに、咲世子だけを名指しで探す理由が思いつかない。何か理由があるはずだ。
「あのー・・よろしいでしょうか?」
睨み合うような形になっていたディートハルトとラクシャータは、サヨコの方へ顔を向けた。
「おそらくは、私がお仕えしていた方の関係かと」
「仕えていた?」
「はい。先日ニュースになっておりました、皇族のナナリー様のお世話をしていましたので」
「え?」
「ああ・・・そういうことですか」
突然の告白にラクシャータは驚き、ディートハルトは途端に興味をなくした。
「でも、あの皇女様はキョウトが人質にしていたんでしょ?」
情報通りならそうなる。
だが、事実は違う。
「いえ、ナナリー様は戦後からアッシュフォード家に匿われておりまして・・・キョウトの話は、ブリタニアが作ったシナリオかと思います」
「匿われていた?」
「詳しいことは存じませんが、大切なお方なのでお守りするようにと」
そこまで聞いてラクシャータは思い出した。
暗殺された悲劇の后妃マリアンヌとその子どもたちのことを。
「つまり、ナナリー皇女の世話役であった咲世子を探しているということは、咲世子が黒の騎士団関係者であることは気づかれていないということでもある」
たしかにそうだ。咲世子はナナリーにもルルーシュにも黒の騎士団のことは言っていない。あの二人は知りようがない。だから、ブリタニアが探しているのは、世話係の咲世子なのだ。
「だが、それはそれで好都合。うまくいけばブリタニアの皇宮内に入り込める」
ゼロの生死を知ることは出来なくても、今後行動を起こす際に黒の騎士団の間者が入り込んでいるかどうかは戦局を大きく左右するだろう。だが、相手は皇室。エリア11にいた頃とは比べられないほど差別を受けることは間違いない。
人間として扱われず、気まぐれに殺される可能性さえある。
「では・・・」
咲世子はならばと口を開いた。